表文研とは?

 表文研は、表現文化研究会の略であるが、現在は表文研で通っている。表現文化全般を研究の対象としながら、文化の創造に一石を投じることを目指している。

 研究会は名古屋で、月1回開かれる。夕食をとりながら各自の創作物を朗読する。会費は、夕食代の等分額(毎回4000円程度)となっている。初回の参加は無料である。

 来る者は拒まず、去る者は追わず、というスタンスで、2008年から月例の研究会を続けている。研究会の日時・場所は、ホームページの「表文研開催日」に記載される。

 研究会の他に、ホームページでも作品を発表することができる。

 表文研の歴史を綴った文章を以下に掲載する。「鈴木亙先生追悼集」(2017年11月)所収の加藤孝男の文章である。

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 平成20年9月10日のことである。名古屋の伏見にある英吉利西屋というパブで、今は亡き大島龍彦氏と鈴木亙氏、そして私(加藤孝男)が会ったことがある。大島氏のキープしていたウイスキーを飲みながら、たまたま、小説を書く研究会を立ち上げないかという話が持ち上がったのである。

 大島さんが「会の名前は、表現文化研究会ではどうだろう」と言い、亙氏が「表現文化研究会、省略して表文研。いいね」と言った。

 会場にしたのは、伏見のみその亭であった。この料亭にしようと言ったのも、大島氏だったと思う。研究会には静かな部屋がいいだろうという、女将のはからいで、離れの部屋を使わせてもらうようになった。

 今の表文研は、小説の他に、あらゆるジャンルを研究の対象としている。古典芸能の研究家の林和利氏、詩人・現代詩研究者の太田昌孝氏、アイリッシュダンスの研究家三好里沙さん、作家志望の嶺井君、詩を書いているぬのめゆりさん、短歌を詠んでいる久納君、大阪の高校の先生である碇君、などが参加し、表文研の名にふさわしい。

 研究会は、毎月1回、作品を持ち寄って、会食をしながら、作品を朗読する。こんな形態であったため、これまで知る人ぞ知る研究会であった。

 第1回の研究会は、平成20年10月31日に、みその亭の離れで開かれた。大島氏が小説「コルドバの女」を朗読し、つづいて鈴木氏が「亜沙子幻想」を、私が「ゆびきり」という小説を朗読した。いずれも短編小説である。

 その日は丁度ハロウィンで、帰りがけに女将から、黒い手袋をもらった。さして飲み食いもせぬわれわれに女将はいつも好意的だった。

 みその亭は、1950年代に創業された料理旅館で、巨人軍がV9の時代に定宿としていたことでも有名である。われわれが研究会をしていたころは料亭になっていた。トイレに行くときなど、中庭を見下ろしながら、風情のある廊下を歩いた。

 われわれは、この二階の離れへ上がり、店が閉まる十時ごろまで研究会をした。その離れは、王貞治が、一本足打法の練習をした伝説的な部屋であった。その座敷で、三好さんが専門のアイリッシュダンスを踊ったことなども忘れがたい。

 われわれが愛していたみその亭が、62年の歴史に幕を鎖したのが、平成24年7月1日のことである。女将が癌で亡くなり、女将の後を継いだ女将も、折からの不況には勝てなかったのである。

 みその亭が閉鎖されてしまうと、表文研もさまざまな場所をさまようことになる。どこにいっても、みその亭の離れほど、研究会に最適な場所はなかった。

 平成28年9月6日、私はゼミ旅行で行った沖縄で、鈴木亙氏の訃報を知った。その南国の島で、亙氏との思い出が、次から次へと浮かんでは消えた。台風が接近していためか、海から来る風が、心をざわつかせていたのである。