久納美輝

短歌同人誌「くわしんふう」を読む① 佐巻理奈子さん part1(執筆者:久納美輝)

2019年11月にまひる野の仲間と同人誌をつくった。本をつくっていたときは、責任感でいっぱいでちゃんと作品を鑑賞することができなかったけど、最近ちょっと余裕がでてきたので、あらためて読者として読み始めている。この同人誌は連作12首とエッセイがセットになっているから、みんさんの分を、どっちも感想をかきたいとおもっているけど、めんどくさがり屋で挫折しやすい性格だから続くかどうかはわからない。

最初は僕と同じくまひる野の若手の佐巻さんの作品から。僕はあんまり自分の感情を歌にすることが苦手で、自分を大きくみせるところがあるから、佐巻さんの等身大で生活感がある感じ(歌もエッセイも)は、率直にいうと好きです。自分にはないものだなぁとおもう。まずは歌から。

  先生はけっきょく不良たちのもの 鴉の死骸を何度も見に行く

この歌は学校生活をおもいだしているのだろうか。不良のばかりではなく自分の話もきいてもらいたかったというおもいが、鴉の死骸をみたときによみがえる。そのときの自分も、不良も、先生もいまはいないことをたしかめるように、何度も鴉の死骸をみてしまう。確認行為の一種のようなものか。

作者はそのときの先生を、そのときの不良のものにすることで、過去から自由になろうとしているとおもう。上の句からはそんな明るさと、「不良たちのもの」といい切るいきよいの良さがある。

日をあらためて他の歌もエッセイについても触れたいとおもう。

たぶん、続く。

読書ノート1 『アーモンド』ソン・ウォンピョン 矢島暁子訳 令和元年7月20日 祥伝社(執筆者:久納美輝)

かんじないということに憧れをもっている人はすくなくないだろう。怒りや恐怖がなくなれば、人の発言にきずつくことはないし、人にいわれたことを素直にきいて行動することができる。ちょっとしたきっかけですぐ激怒したり、ないたり、わらったりする、そんなセンシティブな人は一度は感情をすてさりたいとかんがえたことがあるはずだ。

しかし、かんじないということは、すなわち自分の意志を持たないということであり、世界に対して受動的にしか関わることができない。つまり自分の行動によって他人をあいしたり、大切にすることができないのである。

主人公は十六歳の高校生、ユンジェ。うまれつき感情をつかさどる扁桃体がちいさく、かんじることができない。そのため、目の前で人が死にそうになっていてもなにもかんじることができず、彼はまわりから〝怪物〟とよばれていた。そんな彼の一人称〝僕〟でかたられる物語は、まるで、自分が世界と隔離されていきているように淡々としている。

遠くの方でみんな立ちすくんでいるのが見えた。まるで、男と母さんとばあちゃんがひとつの劇でも演じているみたいに、誰一人動こうとせず、眺めているだけだった。全員が観客だった。僕も、その一人だった。

これは自分の母親と祖母が通り魔におそわれるシーンだ。彼の母親は彼にかんじさせる訓練を必死におこなっていたが、それは身をむすばず、親族をうしなうかもしれないという鬼気せまる場面でも感情はうごかない。

そんな彼は、もうひとりの怪物とであう。あらくれものの同級生、ゴニである。ゴニは暴力をふるっても顔色ひとつかえない彼のこころを必死にうごかそうとする。

「どうだ。今度はちょっとは気持ちが動いたか? やっぱり苦しがってるように見えるだけか。それが、おまえが感じるすべてなのかよ」

ゴニの声はかすれていた。

「今は、痛いだろうなと思うよ、すごく。でも、苦しがっているように見えるのは君の方だよ」

「ああ、俺はこういうの好きじゃないんだ。かっとなって殴ったり殺したりする方がはるかにましだよ。こんなふうにちょっとずつ、じりじりと拷問するみたいなのはすごく嫌なんだ」

これは蝶をころしてみせるシーン。やはり彼のこころはうごかない。そればかりか、ゴニは自分の感情を彼をとおしてしらされることになる。

感情がない彼と感情的なゴニは一見すると対局の存在にみえるが、社会から阻害されているという点では同じである。最終的に彼はゴニとの関わりによって感情を手にいれてゆくのだが、ふたりの友情がむすばれていく過程はとても不器用でみていてはがゆい。とおまわり、とおまわりしているようにみえる。

しかし、平和の名のもとに仲良くすることを義務づけられ、当たり障りないようにコミュニティをつくらなければならない社会ではぐくまれた友情とくらべれば、彼らの不器用な関わり方のほうが自然で人間らしいとおもう。

モーターガレージ(執筆者:久納美輝)

駐車場を一面パンダの埋め尽くす社用車としてあるプロボックス

Suchmos(サチモス)をBGMにひた走るヴェゼルは霧の首都高速を

ウユニ湖の水面と水面の虚の空の境を走るランクル70

ガムテームだらけでほのかに汗臭きビニールシートの祖父のヴィヴィオは

ハスラーとランクル掛けしごと派手なカラーでゴツいFJクルーザー

社用車を他社と比ぶ御社はアルト弊社はアクアやや嫉妬せり

パジェロとう無骨な名とは裏腹にクラシカルなるフライングパグ

排気量0.66悪路ゆく軽だが岩場を登れるジムニー

軽なのにスポーツカーのS660(エスロク)は軽なのに価格200万超ゆ

オフィスにて(執筆者:久納美輝)

オフィス

机(き)の上に小型の醤油ボトル置く 退職代わりに自決せむため

左手でちぎりて落つる髪の毛を床に払いて仕事を始む

同僚のミスを見つけて報告す上司の見らるる全体チャットに

隙あらばマウントを取る癖隠し後輩指導すチャットは難し

洗濯をせぬ服を来てスメハラの議題のあがる会議に参加す

アイコンを自画像に変え反応のなければハンコの画像に変える

菓子ばかり食う社員とぞ後ろ指刺されつつ柿ピー5袋目開く

隣席の人がティッシュに菓子を出し吾は手を伸ばし吾のものとせむ

昼休みのココイチ5辛の肛門のいぼ痔に障り午後半休す

二缶目のコーラ飲むとき隣人に名を呼ばれればゲップで答う

機械仕掛けのたばこ人形(執筆者:久納美輝)

一時間経つと葉巻に火を付けてぷかぷかと吸うたばこ人形

表情はきれいきたないかわいいの3Kを混ぜたグレーの夜人形は

ぷすぷすと焔が消えて床板の跳ね上がり出る煙りたがりさん

十字架に架けられてなお大麻吸う人形の目にある五寸釘

首を断つペーパーナイフが水平に動きて馬から落ちる騎士(ナイト)は

隙間からぶどう酒もれて白ひげのひげを濡らして赤く染めゆく

銀の皿からあふれゆく血をうけてカップの白湯は赤く染まりき

「さんざしは笑っていない」腐葉土にアイスの木挿しラットの墓標

二週間洗っていない洗い場をうねうねと這うハエの子供は

ハエの舞う部屋に積まれし人形の丘に日々寝るハエの王様

後背(執筆者:久納美輝)

自らをクズとは言うな目の前に詠草あらばみなわれの友

惚れやすく会う人すべてを好きになる主婦に言いけり結社は任せろ

自己不全感があるから愛せるぜ君も君の愛しし俺も

なめらかなテーブルクロスにぽつぽつとあるソースこそ吾は描くべし

文学はなべて許容す見せてみよジャン・ジュネ超える認知のゆがみを

会社員、主婦、フリーターなどさまざまな後背のたりと集まる歌会

九官鳥一匹飼いて失言をするたび肩をつついて欲しかり

後背の理解に費やしいい歌か問われれば吾は言葉をうしなう

後背をすこんと抜けば人類も浴槽に浮く垢とおもえり

マイノリティマジョリティとの区別せず吾は受け入れる他者のすべてを

煙草を恨む(執筆者:久納美輝)

夜もすがらタバコ吸いたり新しき歌詠めぬまま四時を迎える

体によくストレスさえも殺すとぞ聞けば贖(あがな)う電子タバコを

副作用なき煙草など幻想と咳やまざれば我が身に覚える

躁鬱や不眠に効くとうCBDなる合法の大麻を試す

ふかぶかと吸い込む後に咳と涙止まらず大麻は吸わぬと決める

死神の鎖鎌にてわが喉を断ちたし喉に痰がたまりぬ

うつろなる瞳を閉じて眠らむと机(き)に伏せたれば一首が浮かぶ

怠惰から勤勉に至る賽を振る博徒のごとく今日も歌詠む

換気扇回し続けてハエたちの湧くことのなくはつかにさびし

カビのわくザル放置して二週間点から面になることはなし

ミドル・ヴァース(執筆者:久納美輝)

学ぶこと拒むる繭を突き破り翼竜としてわれ飛び立てり

雨流すアスファルト踏み足跡(そくせき)の残らぬ都市の影として生く

往年の若々しさを恨みつつメンズ・ビオレで顔を洗えり

ぐい呑みで養命酒呑む何回も読むには重いヘビー・ヴァースは

ヤミ市のカストリ酒を呑むがごとライト・ヴァースをおそれつつ読む

躁鬱や食欲不振に効く歌をミドル・ヴァースと名付けて愛す

われにのみ効く薬らし人様に歌ほどこせば苦情の嵐

一本の便のとぐろを巻く日には下痢の日よりも韻律のよし

すこしずつ暮らし楽しみ詠む歌を残す日々こそわがクラッシク

自らを乳房にかえて墓碑となすふみ子の裸身にわが手を添えたし

スロー・ラナー(執筆者:久納美輝)

就活の作り笑顔をアイコンにすればサイコなやつと言われり

クノくんといつも呼ばれるウが大事クノウはウだよ何度でも言う

アンニュイな表情をする歌人に笑えとつぶやきブラウザを閉ず

YouTubeを開きたくありひねもすをネットに過ごすWeb編集者

目のクマの激しくコンシーラーを塗り死に顔のごと顔で出社す

意図を汲みかたちにするのがクリエイターでは、歌人とはなにものなのか

ひとに仕事振らないわれに下されるめんどくさがり屋という評価

ディレクターなる職位ゆえ顔色を伺い仕事を振らねばならぬ

個性とはあってないもの自意識のつよき人らの通知をオフする

僕はいま頑張ってるときみに言うためだけに詠む毎日十首

梅雨を歩けば(執筆者:久納美輝)

鼻先と股ぐらとあと太腿をあまねく赤く染めゆく炎(ほむら)

考える葦に油のしらじらと凝りてバッテン付けて採取す

傀儡子は傀儡人とは名乗らざり現代短歌作家と名乗らむ

躁鬱の景をあらわす赤と黒わが目に刺さる『ティーバッグの雨』

酔うために吾の呑む赤きぶどう酒を孝男は渋みぞうましと呑みけり

語るとき目尻の下がりモゴモゴと言葉を探す大学教授は

時事ばかり詠むようになり彼の視し銀河は過去にけぶりつつある

普遍的美学と俗を愛す吾のこころはリンクせずすれ違う

詠草に不幸匂えばその生を認めてその語と吾は向き合わず

傘ささず梅雨を歩けば髪濡らす雨粒すべてをエスプリと呼ぶ