アーカイブス(作品)

短歌10首 冬の夜(執筆者:久納美輝)

もみの木に手をもみながらきみを待つ ぼくらにぬくいベンチをください

あこがれは野口と決めてくびすじを伸ばして歩く冬の夜道を

すきっぱを鳴らして笑う欠けた歯は親知らずってことにしておく

国士無双十三面待ち神様がどの歯を折るか決めかねている

雪ではなくみぞれのようだ 濡れながら煙草一本吸いに出る夜

ひさびさに笑える裸冬の夜ザコシが街に「殺す」って言う

いくえにも鎧はあって核がないたまねぎを切る涙が出そう

ペヤングの湯切りから出るもくもくが雪を溶かして翌日の晴れ

「あかのれん」白いスウェットぶかぶかの着丈できればぼくもかわいい

エスカから上昇気流に乗って飛ぶ ほら、みてあれが銀時計だよ(名駅)  

短歌10首 蟹のごとくに(執筆者:久納美輝)

テーブルと介護ベッドの狭き間をいちはやく過ぐ蟹のごとくに

絶え間なく水は流れて祖母の手に拭はぬ疫病の神あまたをり

ふとももとふとももの間の嵌張の灰皿にカンと雨だれが落つ

居間の祖母を離るやうに母は子供部屋、祖父は二階に子は外にゆく

左から右に流るる風を見る闇夜の屋根に雲隠るまで

曇天の夜空に光るほの明き星にあなたの頬おもひ出す

街頭の明かりに読まば文庫本ひかりを映し羽虫らが群る

天井の木目を祖母はじつと見る群青の空をゆかしむやうに

くさむらに身を横たへて口に入る索子を噛まば甘みを感ず

短歌10首 東風(執筆者:久納美輝)

晩から晩まで打ちに打たれてたん/たか/たんをあおれば響きを対子(トイツ)とおもふ

ハコテンに泣きぬれし夜に爪ながきわが身十指の点棒を研ぐ

捨て牌を悩めるうちに夏の過ぎ木枯らしの吹くひとりのオーラス

切つ先のまるきナイフで縊りたる鶏はしずかにチーと啼くなり

昨夜(きそ)までの四半世紀をまつさらに変へむと白(ハク)の牌ばかり待つ

一、五、十、百のじやらじやらなる財布 煙草を買ひて国士をツモる

ハイウェイに右手を出して掴み取る東風にある自風の東(トン)を

読み終へし本を閉づればその風に捲られて飛ぶ公園の鳩

烈日の晩夏を歩く背は暑くすれちがふ風に腕(かいな)は涼し

 名鉄岐阜行きの急行を待つてゐた
カーブからスカーレットが弧を描き少し遅れて風吹き荒ぶ

短歌10首 たましひを焚く(執筆者:久納美輝)

植ゑ込みに暇人四人(よたり)が凭れるをカフェゆ眺めて指先に撃つ

青々とまつすぐ立てりひと日ごとにたましひを焚く蝉の鳴く木は

五月雨の夜に大きく手を広げ「もう死ぬわ」つて蛙が死せり

コロナ禍に大雨も降り短冊の重みに笹はしなつてしなつて

急行を俺が俺がと急ぎ合ふ誰も俺らのゆくへ知らずも

君の手を握らば糸を引きさうな両手をズボンにしまつて歩く

窓を打つ雨音聴きてさらさらと砂糖をそそぐ感じに眠らむ

バニラの香漂ふ古書を夜ひらくこそばゆき鼻の頭を掻きつつ

長雨の紫陽花の花序のきみどりを広野とおもふ蟻の駆ければ

うつしみの柔きわが身を湖に写さば腐(くた)してゆくゆふまぐれ

香港の愛

 静かな部屋に聞き耳し
 両親は思う「寝たのかな」
 彼女は二人を聞き耳し
 束縛逃れる出窓から
 
 彼の許へと河を越え
 国境を越えて会いに来た
 遮る言葉は戯わ言で
 青春すべて愛に生きた
 
 香港の私、学生で
 深圳の彼は行政市官
 一つの身体に二つの魂
 信じる世界の果てまで楽しい
 
 だけど引き裂く悪政で
 法を通せば強制帰還
 今では記憶もみな薄れ
 夜景の告白、浸る夢
 
 香港政府、期待外れ
 明かりの灯る未来は揺れ
 道にも空にも自由はなく
 公権力の銃が鳴く
 
 彼が悪い訳ではないが
 立場の違いが引き裂いた
 私の故郷の目の前が
 閉ざされるなら戦うだけだ
 
 深圳の河に横たう哀歌

月光のワルツ(川岸 直貴)

月の下であなたと
ふたり踊るワルツを
あすもきょうも忘れて
兎たちとお茶しよう

赤い口紅(ルージュ)で染めて
蝶の揺飾(フリル)を留めて
森の中は琴風弦(ヴァイオリン)が
鳴り響いて小鳥たちも歌う

Ru-tatta-Ru-tatta-
月の涙
Tu-chacha-Tu-chacha
帰り道はどこ

冷たい朝の空気を吸い込んで
罪も穢れも落としてゆく
こころに流れる朝を感じる
あなたの長衣(ローブ)の中で

乳白(ミルク)色の陶器を探しましょう
天蚕糸の髪を洗いましょう
夢の泉のほとりで
剣の舞いをしましょう

海月の表情は新月に変わる
満ちては欠ける道の途中
霧のあなたの幻想を見た
死体になった切株の上で

モーターガレージ(執筆者:久納美輝)

駐車場を一面パンダの埋め尽くす社用車としてあるプロボックス

Suchmos(サチモス)をBGMにひた走るヴェゼルは霧の首都高速を

ウユニ湖の水面と水面の虚の空の境を走るランクル70

ガムテームだらけでほのかに汗臭きビニールシートの祖父のヴィヴィオは

ハスラーとランクル掛けしごと派手なカラーでゴツいFJクルーザー

社用車を他社と比ぶ御社はアルト弊社はアクアやや嫉妬せり

パジェロとう無骨な名とは裏腹にクラシカルなるフライングパグ

排気量0.66悪路ゆく軽だが岩場を登れるジムニー

軽なのにスポーツカーのS660(エスロク)は軽なのに価格200万超ゆ

オフィスにて(執筆者:久納美輝)

オフィス

机(き)の上に小型の醤油ボトル置く 退職代わりに自決せむため

左手でちぎりて落つる髪の毛を床に払いて仕事を始む

同僚のミスを見つけて報告す上司の見らるる全体チャットに

隙あらばマウントを取る癖隠し後輩指導すチャットは難し

洗濯をせぬ服を来てスメハラの議題のあがる会議に参加す

アイコンを自画像に変え反応のなければハンコの画像に変える

菓子ばかり食う社員とぞ後ろ指刺されつつ柿ピー5袋目開く

隣席の人がティッシュに菓子を出し吾は手を伸ばし吾のものとせむ

昼休みのココイチ5辛の肛門のいぼ痔に障り午後半休す

二缶目のコーラ飲むとき隣人に名を呼ばれればゲップで答う

機械仕掛けのたばこ人形(執筆者:久納美輝)

一時間経つと葉巻に火を付けてぷかぷかと吸うたばこ人形

表情はきれいきたないかわいいの3Kを混ぜたグレーの夜人形は

ぷすぷすと焔が消えて床板の跳ね上がり出る煙りたがりさん

十字架に架けられてなお大麻吸う人形の目にある五寸釘

首を断つペーパーナイフが水平に動きて馬から落ちる騎士(ナイト)は

隙間からぶどう酒もれて白ひげのひげを濡らして赤く染めゆく

銀の皿からあふれゆく血をうけてカップの白湯は赤く染まりき

「さんざしは笑っていない」腐葉土にアイスの木挿しラットの墓標

二週間洗っていない洗い場をうねうねと這うハエの子供は

ハエの舞う部屋に積まれし人形の丘に日々寝るハエの王様

後背(執筆者:久納美輝)

自らをクズとは言うな目の前に詠草あらばみなわれの友

惚れやすく会う人すべてを好きになる主婦に言いけり結社は任せろ

自己不全感があるから愛せるぜ君も君の愛しし俺も

なめらかなテーブルクロスにぽつぽつとあるソースこそ吾は描くべし

文学はなべて許容す見せてみよジャン・ジュネ超える認知のゆがみを

会社員、主婦、フリーターなどさまざまな後背のたりと集まる歌会

九官鳥一匹飼いて失言をするたび肩をつついて欲しかり

後背の理解に費やしいい歌か問われれば吾は言葉をうしなう

後背をすこんと抜けば人類も浴槽に浮く垢とおもえり

マイノリティマジョリティとの区別せず吾は受け入れる他者のすべてを

煙草を恨む(執筆者:久納美輝)

夜もすがらタバコ吸いたり新しき歌詠めぬまま四時を迎える

体によくストレスさえも殺すとぞ聞けば贖(あがな)う電子タバコを

副作用なき煙草など幻想と咳やまざれば我が身に覚える

躁鬱や不眠に効くとうCBDなる合法の大麻を試す

ふかぶかと吸い込む後に咳と涙止まらず大麻は吸わぬと決める

死神の鎖鎌にてわが喉を断ちたし喉に痰がたまりぬ

うつろなる瞳を閉じて眠らむと机(き)に伏せたれば一首が浮かぶ

怠惰から勤勉に至る賽を振る博徒のごとく今日も歌詠む

換気扇回し続けてハエたちの湧くことのなくはつかにさびし

カビのわくザル放置して二週間点から面になることはなし

ミドル・ヴァース(執筆者:久納美輝)

学ぶこと拒むる繭を突き破り翼竜としてわれ飛び立てり

雨流すアスファルト踏み足跡(そくせき)の残らぬ都市の影として生く

往年の若々しさを恨みつつメンズ・ビオレで顔を洗えり

ぐい呑みで養命酒呑む何回も読むには重いヘビー・ヴァースは

ヤミ市のカストリ酒を呑むがごとライト・ヴァースをおそれつつ読む

躁鬱や食欲不振に効く歌をミドル・ヴァースと名付けて愛す

われにのみ効く薬らし人様に歌ほどこせば苦情の嵐

一本の便のとぐろを巻く日には下痢の日よりも韻律のよし

すこしずつ暮らし楽しみ詠む歌を残す日々こそわがクラッシク

自らを乳房にかえて墓碑となすふみ子の裸身にわが手を添えたし

スロー・ラナー(執筆者:久納美輝)

就活の作り笑顔をアイコンにすればサイコなやつと言われり

クノくんといつも呼ばれるウが大事クノウはウだよ何度でも言う

アンニュイな表情をする歌人に笑えとつぶやきブラウザを閉ず

YouTubeを開きたくありひねもすをネットに過ごすWeb編集者

目のクマの激しくコンシーラーを塗り死に顔のごと顔で出社す

意図を汲みかたちにするのがクリエイターでは、歌人とはなにものなのか

ひとに仕事振らないわれに下されるめんどくさがり屋という評価

ディレクターなる職位ゆえ顔色を伺い仕事を振らねばならぬ

個性とはあってないもの自意識のつよき人らの通知をオフする

僕はいま頑張ってるときみに言うためだけに詠む毎日十首

梅雨を歩けば(執筆者:久納美輝)

鼻先と股ぐらとあと太腿をあまねく赤く染めゆく炎(ほむら)

考える葦に油のしらじらと凝りてバッテン付けて採取す

傀儡子は傀儡人とは名乗らざり現代短歌作家と名乗らむ

躁鬱の景をあらわす赤と黒わが目に刺さる『ティーバッグの雨』

酔うために吾の呑む赤きぶどう酒を孝男は渋みぞうましと呑みけり

語るとき目尻の下がりモゴモゴと言葉を探す大学教授は

時事ばかり詠むようになり彼の視し銀河は過去にけぶりつつある

普遍的美学と俗を愛す吾のこころはリンクせずすれ違う

詠草に不幸匂えばその生を認めてその語と吾は向き合わず

傘ささず梅雨を歩けば髪濡らす雨粒すべてをエスプリと呼ぶ

モンキー・ライフ2(執筆者:久納美輝)

少数派ぶりたしグレート・ブリテンの国旗掲げしMINI乗り回し

一身にギャルズ・ウィンクを受けて立つガルウィングからゆっくり降りて

鶏頭をたやすく手折る吾も君も 頸動脈を断てば屍

身を捨つる結社はあれど大義なし総括もなくただ老い痴れるのみ

大義さえあらば他人を殴らむとおもいつつ待つ信号機赤

君といるシンクロニシティともに歌詠みて認知のゆがみを正せり

一日に二本と決めて三本目のモンスター購うカフェイン中毒

恋愛も嗜癖のひとつ人と会う時間を恐れて部屋にこもりぬ

糖質オフの味わいのなきビール飲む 酩酊すらももうめんどくさい

十首出し次の十首の締め切りを恐れて過ごす囚人として