田村ふみ乃

田村ふみ乃『ティーバッグの雨』抄

田村ふみ乃『ティーバッグの雨』 2018.4 短歌研究社

<ラ>が強く男の舌に弾かれてラベンダーの香の色濃くたてり

 人間が舌で弾くもの。とくに男女の間にあっては、さまざまなものが対象になる。この歌はその一つとして音の「ラ」をあげているのだろう。その花の紫と安らかな香りに濃く染まったラベンダーの「ラ」。

2018,5,15 読売新聞 長谷川櫂の詩歌コラム「四季」に掲載

照りつける西日の舗道に動かざるムカデが地表の紋章となる

飴細工 琥珀の熱を黄金の尾びれに変えておよぐ晩夏を

このへんに顔があったと濡れながら父の柩に傘かざす母

ヒゲのなきガラスの猫に凍(し)むる光(かげ)夜すがら瑕を浄めんとせり

溢れたる目薬拭い去りしのち喉(のみど)に苦しひとつ春の嘘

あいまいな別れの理由そのままに君と酔いたる悪王子町(あくおうじちょう)

マンゴーの切断面ぞ美しきペティナイフが満月を裂く

巻き貝の螺旋の尖(さき)のその先を辿れずふたりの夏を逝かしむ