中城ふみ子 短歌解説その69(執筆者:田村ふみ乃)

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追ひつめられし獣の目と夫の目としばし記憶の中に重なる 

1951年4月3日「北門新報」

「獣の目」は作者自身の目と解釈する。離婚のために子供を手放すしかなくなったふみ子の追いつめられた心境を表していると読んだ。かつての夫も日々何かに追い詰められていたのだと、その目を思い出し、そこに同種の鋭い光と影をもった己の目を重ねた。

この歌は、地方新聞の「北門新報」に「ANIMALS(アニマルズ)」と題し、掲載された7首のうちの1首。ほかのどの歌にも「けもの」「けだもの」という語が用いられている。ふみ子は夫と別居中だったが、すでに想う男性がおり、自身の不純な内面を野獣性として物語っている。掲出歌の前にはこんな歌がみられる。

 捌(さば)かるる鞭なきわれのけだものはしらしらとして月光に跳ぶ

彼女は道理に外れていることをわかっているが、それを裁く鞭などないのだから「けだもの」はしらじらしく跳び回ることを許されているのだと、自分を詠んでいる。

何事かがあると思わせて読み手を引きこむうまさは、さまざまな仕掛けをほどこしているからだけでなく、私小説的な連作で1首1首が展開してゆく面白さもあるからだろう。陰翳(いんえい)を帯びた目でうたわれた記憶は、作者のなかでほどかれ、再生されて物語としてはじまるのだ。

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