中城ふみ子 短歌解説その73(執筆者:田村ふみ乃)

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灯を消してしのびやかに隣に来るものを快楽(けらく)の如くに今は狎(な)らしつ 

1954年9月「凍土」

結句の「狎らしつ」とは、もう当然そばにいるものとして、それを受け入れたことを意味する。病室の灯りを消すと、作者の隣にしのび寄って来るものがいる。その正体とは……。

ふみ子のベッドへそっと入って来て、彼女の心身に快楽をもたらすのは、死神である。以前はその気配すら恐ろしかったはずなのに、今では死神さえも男のように手なずけて、至上の悦びを感じている。肉体を超え、生を超越したエロスがある。

この1首は闇の世界を濃厚に感じさせ、詠み手の心を揺り動かすだけの説得力をもつ。それは、今来てもおかしくない死に対する覚悟を、安易な感情の言葉を切り捨てて甘やかな雰囲気に包んでうたう技術と独創性、それに加えて死に直面する人間の真実味も備わっているからだ。

掲出歌は「夜の用意」と題された10首のなかにあり、ふみ子が亡くなる1週間前に結社誌「凍土」へ届けられた。彼女の死後、第2歌集『花の原型』を手掛けた中井英夫が「夜の用意」について、「これが自筆最後の遺稿となっているので特に重視した」と、『定本 中城ふみ子歌集』に記している。いかに愛を求め、いかに生きたか、彼女の作品世界に興味が尽きない。

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