中城ふみ子 短歌解説その74(執筆者:田村ふみ乃)

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虹の橋いつか薄れぬいとせめて残照の恋われにあらしめよ 

1948年3月「新墾(にいはり)」

この歌が発表される半年前に作者は三男を生んでおり、子育てに追われながら、あぁ、恋がしたいと叫んでいる。

ふみ子が好きだった与謝野晶子にも、虹を詠んだ次のような歌が『みだれ髪』にみられる。

さゆりさく小草が中に君まてば野末にほひて虹あらはれぬ

あらわれたこの「虹」は、恋の成就の予兆だと、『みだれ髪』を全注釈した荻野恭茂はとらえている(『和歌文学大系26』)。

一方、ふみ子の「虹」は、いつか薄れてゆくのだからといっているが、もう消えかかっているのだ。だから消えてしまう前に、まだわたしの内に恋のあかりが照り残っているあいだに、恋をさせてほしいよ、と切なる思いをうたっている。

この歌には思い入れがあったようで、1948年6月、夫に四国・高松への転勤の辞令がおりると、ふみ子は高松へ発つ前に、家政学院時代の恩師・池田亀鑑(きかん)に手紙を出している。そこには「一生かかって短歌の道を歩いていきたい」という内容と14首が書かれ、そのなかに掲出歌がある。

また同年の10月30日に、幼馴染(おさななじ)みの鴨川寿美子へ宛てた手紙にも、同歌が添えられている。

夫との気持ちのすれ違いや、子育ての孤独感もあったのだろう。恋に逃げ道を求めようとする25歳の彼女の、生活実態のなかでつかんだ心象風景が色濃く歌に表れている。

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