中城ふみ子 短歌解説その75(執筆者:田村ふみ乃)

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母を軸に子の駆けめぐる原の昼木の芽は近き林より匂ふ

1951年6月「新墾(にいはり)」

暖かい日差しのなかで、新芽の匂いを感じながら作者は敷き物の上にでも座っているのだろう。自分の周りを駆け回る子供たちを、目を細めて見ている光景が浮かんでくる。

一見、幸せな生活を送っている母と子に思えるが、この時ふみ子は夫と別居中で、幼い三人の子供を育てていた。母親として子供たちをどこへどう導いていけばいいのか、不安が消えることはなく、いくら考えても答えの出ない堂々巡り。そんな作者の心情が、自分を軸にぐるぐる駆けめぐる子供たちの様子に映し取られているように思う。

掲出歌は、第2歌碑として1983年8月3日に、帯広を代表する広大な敷地をもつ緑ヶ丘公園に建てられた。碑は春楡(はるにれ)や水楢(みずなら)、柏(かしわ)の原生林の丘にあり、リスが群れていることもあるという。

毎年ふみ子の命日に、第1歌碑(帯広護国神社境内)と第2歌碑の前で交互に「ふみ子忌・献歌祭」が、「中城ふみ子会」の会員の尽力で行われてきた。午前10時50分、ふみ子が亡くなった時刻に黙祷が捧げられて始まり、参加者が短冊にしたためた自作の歌を詠み、ふみ子を偲ぶ。

2016年8月3日、「第62回ふみ子忌・第36回献歌祭」に参列した。その日は、30度を超える暑さにもかかわらず、二十数名が集まった。黙祷の間、鳥のさえずりが響きわたり、林の匂いを濃く感じた。そして冒頭の歌がゆっくりと読みあげられてゆく。

不世出(ふせいしゅつ)の歌人に魅せられた人々の熱き思いは、今後も決して薄れることはないに違いない。

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