平和園に行く(執筆者:久納美輝)

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2020年12月17日(木)の今日は、雪が降って寒い日だった。しばらく人と会わずひきこもっていた私は、歌人の聖地(メッカ)と言われる「平和園」に行った。『平和園に帰ろうよ』という歌集を買ったので、その感想を、平和園で働く作者チャーリーさんに伝えに行こうとおもったのである。

雪のなかを傘をささずにずぶ濡れになりながら、平和園に行くと意外な方がいた。若い女性歌人のAさんである。Aさんはすでに歌集を数冊発表されている方で、歌集を出していない自分からすれば、大大先輩である。4、5年前、後輩の女性の前でイキっていた私に「10年以上歌人として長く活動したければ、女性に対する発言には気をつけないといけないよ」と優しく諭してくれた方でもあった。最も当時の私は「10年後なんて知らないよ」と素直に聞けなかったのであるが。

それから嫌われているとおもっていたが「やぁ」と気さくに声をかけていただいて安堵。お互いに好きな本について雑談する。「魔性の男や女が活躍する作品を知らないか」と聞かれ、レオス・カラックスのアレックス青春三部作や『肉体の悪魔』について語る。『肉体の悪魔』に関してはほとんどあらすじをおぼえてないのだが。とりあえず、作品の名前を知っているだけでパッと話題は華やぐ。その他にも、ナウシカよりも「もののけ姫」のサンの方が野性的で、魔性の女と言えるのではないか、百恵ちゃんの方が明菜ちゃんより魔性っぽさがある(明菜ちゃんはどこかかまってほしいそうなところがあり、口説いたらイケそうではないか)などで意見が一致した。話がそれてしまうがふたりとも『魔の山』は読み切っていないのであった。

他にもモテる秘訣で盛り上がる。私はどうやら「モテたい」というオーラがプンプンしており、Aさんはその様子を遠巻きに見たときに、「透明なコップにビールを注ぐ業平(プレイボーイで知られた在原業平)きどりが気に障る」という歌を詠んだほどであったという。

では、どうすればモテるのかという話になり、「自分だけがイケていると思いこむこと」と教わる。「歯を磨く、朝起きる、そんな小さなことでもできる自分はかっこいい。かっこいいから人には優しくする」。それが「内なる自信を育てる」コツだという。やはり「何もかもだめだけど、短歌だけはできる」という自意識過剰な一本足打法では、女性を受け止めることはできないのである。

あとは、自分が美しい。好きとおもうものを追求するのもいいそうだ。そういえばモテたいと言う割には、自分はイケている男が活躍する芸術作品についてまるっきり知らないのであった。

最終的にはいつもより深酒してしまって、後半は自分がなにを行っているのかわからなくなった。「ピストルズよりラモーンズ」という話をしていたとおもうが、適切な文脈で話したかわからない。自分語りが好きなクソやろうとおもわれていないことを願う。きっとおもわれていないだろう。みんな自分のことで精一杯で他人のことを悪くおもう時間なんてないのだから。

肝心の『平和園に帰ろうよ』の感想は、チャーリーさんに言えなかった。自分は麻雀を少しかじっているので「国士無双十三面待ち華やいで進むべき道いつか間違う」という歌が好きだということだけ伝えた。麻雀は自分の選択で牌を捨てていくゲームであるが、国士無双は運任せである。うまく行き過ぎている自分の人生が、自分の選択によるものか、はたまたただの偶然なのか、不安になった歌なのかとおもった。

ちなみに帰り際、捨てる傘だからと言われ、チャーリーさんから傘をもらってしまった。あつかましい酔客である。平和園にはまた折を見て行こうとおもう。

雪ではないみぞれのようだ 濡れながら煙草一本吸いに出る夜(久納美輝)

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