英語と日本語の多音節押韻について(執筆者:川岸直貴)

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 日本の詩歌文学の世界では、『多音節押韻』の存在はあまり知られていない。

 しかし、英語と日本語のHIPHOPにおいて、『多音節押韻』というものは非常によく見られる。

It’s on, so you can swerve when it’s heard in clubs
Thought patterns displayed on Persian rugs

Rakim『Guess Who’s Back』(1997年)より

 上記のリリックでは、「heard in clubs [hˈɚːd.in.klʌbz]」と「Persian rugs [pˈɚː.ʒən.rʌgz]」で、多音節にまたがって押韻がされている。([]内の「.」は音節の区切りを示す)

 重要なポイントは、ストレス(強勢)の置かれる音節だけ押韻されており、非ストレス音節は、押韻はしてもしなくてもどちらでも良い、ということである。ストレス音節の「hˈɚːd」と「pˈɚː」、「klʌbz」と「rʌgz」の母音を見れば、一致していることが分かるだろう。対して、非ストレス音節「in」と「ʒən」は押韻されていない。

 英語は、ストレス音節で押韻をすることが非常に重要で、非ストレス音節はほとんどの場合で重要視されない。これを多音節で押韻するのが、『多音節押韻』である。英語では「Multisyllabic rhymes」と呼ばれ、引用しているRakimは、この技法を最も初期に始めたラッパーである。

His palms are sweaty, knees weak, arms are heavy
There’s vomit on his sweater already, mom’s spaghetti

Eminem『Lose Yourself』(2002年)より

 Eminemもよく「Multisyllabic rhymes」を使う代表的なラッパーである。こちらも同様に、「arms are heavy [άmz.ɚ.hé.vi]」と「mom’s spaghetti [mάmz.spə.gé.ti]」で、ストレス音節で押韻し、多音節押韻をしている。

 日本においても、多音節押韻の技法は存在しており、非常に発展している。しかし英語と違い、日本語には明確なストレスというものはない。どのように多音節押韻を実現しているか、見てみよう。

最終兵器出すこの世紀末
結末はいつも正義が勝つ

キングギドラ『空からの力 Part II』(1995年)より

 上記のリリックでは、「兵器出す [heː.ki.da.su]」と「世紀末 [seː.ki.ma.tsu]」と「正義が勝つ [seː.gi.ga.ka.tsu]」で、多音節にまたがって押韻がされている。英語と違うのは、全音節で母音が一致している点である。日本語には明確なストレスがないため、全ての音節の母音を一致させる。

 最後の「正義が勝つ」は、中間の音節数が余ってはいるが、以降このようなスタイルが日本語の『多音節押韻』の主流になっていく。日本語による多音節押韻を最初に始めたのは、キングギドラのK DUB SHINEと言われる。

笑い声が響き渡る
どんな雨も今日は虹にかわる
直に分かる 君にはまず

KICK THE CAN CREW『マルシェ』(2002年)より

 KICK THE CAN CREWは、多音節押韻を非常に重視したラップ・グループだ。この例では、「響き渡る [hi.bi.ki.wa.ta.ru]」「虹にかわる [ni.zi.ni.ka.wa.ru]」「直に分かる [zi.ki.ni.wa.ka.ru]」「君にはまず [ki.mi.ni.ha.ma.zu]と、4つのフレーズで、6音節に渡る多音節押韻をしている。

 面白いのは、それぞれのフレーズの品詞の構成が異なることだ。品詞の構成は、それぞれ複合動詞、名詞+助詞+動詞、副詞+動詞、名詞+助詞+助詞+副詞だ。その結果、文節の区切れる位置も異なる。

 ちょっと余談で、かつ専門的な話になるが、もう少し詳しく上記の例を見てみよう。今度はフレーズのアクセント曲線に着目する。

響き渡る [nFnFnFnFnFF]
虹にかわる [nFnFnFnFnFF]
直に分かる [nFnFnFnFnFF]
君にはまず [nFnFnFF nFF]

※nF(not Fall)はアクセント非下降、F(Fall)はアクセント下降を示す。

 筆者が楽曲の歌唱を聴き取って、アクセント曲線を表現した。歌唱なので、元の語のアクセント曲線からは大きく変わっている。日本語は高低アクセント言語と言われるが、東京方言のアクセントのFは、イントネーションによって決定づけられるので、特に歌唱においては自由なF位置を指定できてしまう。しかし、最後の「君にはまず」だけは、自然な変更が実現できていないようであり、アクセント曲線が他のフレーズと異なるので、ここだけ響きが弱くなっている。

 日本語の『多音節押韻』で、さらに極端な例になると、下記のようなものもある。

起承転結のない未完成
自称伝説の大器晩成

LITTELE『ワンマンショウ』(2008年)より

イリオモテヤマネコ
キリン氷結サワーレモン

*韻マンのライム『“Yo!晋平太だぜ Raps”チャンネル』より(2:29~2:32)

 「起承転結のない未完成 [ki.sjoː.ten.ke.tsu.no.nai.mi.kan.seː]」と「自称伝説の大器晩成 [zi.sjoː.den.se.tsu.no.tai.ki.ban.seː]」、実に10音節に及ぶ母音の一致だ。

 「イリオモテヤマネコ [i.ri.o.mo.te.ya.ma.ne.ko]」と「キリン氷結サワーレモン [ki.rin.hjoː.ke.tsu.sa.waː.re.mon]は、中間に一部差異はあるが、語同士のレベルで、ほぼ9音節に及ぶ母音の一致を実現している。

 こういうライミングは、なかなか英語では実現が難しそうである。ここから、ストレスがないことを逆手に取り、超多音節での押韻を実現できる特性が、日本語にはあると分かる。

 『多音節押韻』は、残念ながら日本語の詩歌文学の世界には、まだまだ取り入れられいない。というより、私以外にこの技法を現代詩で使っているひとは、ほぼ誰もいない状態だ。

 『多音節押韻』がより一般的になり、新しい詩歌の表現が生まれることを期待しているし、私自身が第一人者として作品を発表していきたい、という気持ちだ。

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