鷹の鋭(と)き爪感じつつ立ちをれば一つかみなるわが肩は冷ゆ 

1954年10月「新墾(にいはり)」

鷹(たか)の鋭い爪が、身に食い込む。「一つかみなる」の的確な把握で、自身の弱々しいさまを描きとり、今、まさに恐ろしいものに捕らわれている状態を「冷ゆ」と、五感で語る。

ふみ子が「新墾」に出したこの歌が掲載されるのは、彼女が亡くなったあとだった。極限状態にありながら、ベッドの上で鷹に襲われている自分の姿を俯瞰(ふかん)するような冷静な視点の構図に、作者の強靭な精神が表れており、読み手に悲痛な印象を与えない。

入院中の消灯後の静かな闇に、毎夜、繰り返される悪夢。それはいつか覚める夢などではなく、これこそが死へ向かっているものの現実の世界なのだ。

闇の沈黙にひろがる無限な空間で研ぎ澄まされてゆく感覚。それが「鷹の鋭き爪」という猛々しい比喩や、冷酷な死を思わせる「冷ゆ」という言葉を作者につかませた。

ふみ子が亡くなったのは1954年8月3日だが、6月下旬には、一時、危篤にまで陥っている。その時は何とか持ちなおし、死の直前まで歌を作ることをやめなかった。

いくつもの結社誌に関わり、その名を知らしめたふみ子が、初めて結社に入ったのは24歳の時、この「新墾」だった。掲出歌は「夜の掌」と題された7首の最後におかれ、「新墾」における遺稿の、その最後を飾る歌となった。